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名古屋高等裁判所 昭和37年(ネ)50号 判決 1963年5月30日

第一審原告 堀木俊三 外一名

第一審被告 三和商工株式会社 外一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告両名は各自第一審原告堀木俊三に対し金一、二一四、二九九円五五銭、同堀木康子に対し金一、一七二、二一九円〇五銭および右各金額に対する昭和三四年三月一五日以降各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告らのその余の請求を棄却する。

第一審被告らの控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分しその一を第一審原告両名の負担その二を第一審被告両名の連帯負担とする。

この判決は第一審原告ら勝訴の部分に限り、かりにこれを執行することができる。

事実

第一審原告(以下単に原告という)代理人は「原判決を次のとおり変更する。第一審被告(以下単に被告という)らは各自原告堀木俊三に対し金一、四六四、二九九円五五銭、原告堀木康子に対し金一、四二二、二一九円〇五銭および右各金員に対する昭和三四年三月一五日以降各完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被告らの連帯負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告代理人は「原判決中被告敗訴の部分を取り消す。原告ら(もと原告堀木さゝの部分を含む)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告らの負担とする」。との判決を求め、双方ともに相手方の控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、立証関係は次に付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原告代理人は、

一、本件において原告であつた堀木さゝは本件事故による傷害が原因となつて、昭和三七年六月二六日死亡するに至つたので、同人が第一審以来控訴審係属中も請求していた本件損害賠償請求権を含むその遺産全部はその実子たる原告俊三、同康子の両名においてその相続分各二分の一に応じてこれを相続したものである。

よつて、右亡さゝが有していた本件損害賠償請求権(原判決事実摘示中請求原因第三項の右さゝ分四六一、二〇三円八七銭同第四項の六〇、八二六円五〇銭(以上は原審の認めたとおり)、同第六項の四〇〇、〇〇〇円、同第七項の八〇〇、〇〇〇円の合計より同第八項の(一)の保険金受領分二〇〇、〇〇〇円を引いた一、五二二、〇三〇円三七銭)の二分の一宛(七六一、〇五円一八銭)を原告俊三、同康子において承継取得したから、これを請求するわけである。

二、本件事故にもとづく、財産的損害については原審の認めた額について、あえて不服はいわない。しかし精神的損害の慰藉料の額については亡覚之助の死亡によるものならびに亡さゝの死亡によるものをあわせて原告俊三、同康子については各金三〇〇、〇〇〇円、亡さゝについては覚之助の死亡による精神的損害に対し金四〇〇、〇〇〇円とし、さゝ自身の分については前記のように間もなく死亡するに至る程の重傷であつたことを特に強調して金八〇〇、〇〇〇円として請求するわけである。

三、よつて、原告俊三については同人自身の財産的損害(原判決事実第五項の原判決認定の額)四二、〇八〇円五〇銭、精神的損害三〇〇、〇〇〇円、亡覚之助の財産的損害の相続分(原判決認定額)四六一、二〇三円八七銭亡さゝの相続分前記七六一、〇一五円一八銭の合計額より保険金受領分一〇〇、〇〇円を引いた残額金一四六四、二九九円五五銭を、原告康子については金一、四二二、二一九円〇五銭(俊三の額より右最初の金額のみ除く額)を請求することとなる。

四、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者であるから、本件事故により覚之助およびさゝを死亡せしめた損害を賠償する義務のあるのは当然であることを付加する。

と述べた。

被告代理人は堀木さゝが死亡したことは認めるがその原因関係は否認すると述べた。(証拠省略)

理由

当審において、当事者双方の主張、立証するところを勘案してなした当審の判断は次に付加するほかは慰藉料に関する部分を除くその余につき原判決理由記載(原判決書理由最初より同書一八枚目表五行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

成立に争いのない甲第一一号証、当審における証人堀木咲子の証言原告本人堀木俊三の供述ならびにこれにより成立を認め得る甲第一〇号証を総合すると、堀木さゝは本件事故による傷害が原因となつて昭和三七年六月二六日死亡するに至つたことが認められるが、原告代理人において、特にこれに関する費用、その他の出捐に関する損害賠償を追加しないから、前記の判断を左右するものはない。

乙第三八号証は亡堀木覚之助の生前の収入についての前記判断を覆すに足るものとは認められないし、当審における証人堀木咲子同松本勝爾の証言、被告本人黒田照司、原告本人堀木俊三の供述中以上の判断にそわない部分は採用できないところである。

なお、前記のように当審係属中まで原告(控訴人)であつた堀木さゝが昭和三七年六月二六日死亡したので、前記認定にかかる亡堀木覚之助の得べかりし利益の喪失による損害賠償請求権の内右さゝの相続した分ならびに堀木さゝの受けた物的損害の損害賠償請求権は、さらに同人の死亡による相続によりその直系卑属である原告俊三、同康子がそれぞれ二分の一宛を承継したことになるのは成立に争いない甲第一号証の一、二第一一号証により明白である。

次に慰藉料の点につき考察すると、原告代理人は当審において前記のように堀木さゝの死亡による精神的損害をその実子である原告俊三、同康子の固有の慰藉料請求の原因として追加しているわけであつて、堀木さゝの死亡が本件事故を経過すること三年三ヶ月余であつても前に認定したとおりの重傷であり、前記甲第一〇号証当審における証人堀木咲子の証言、原告本人堀木俊三の供述に徴し認められるように、本件事故による右重傷のため起居不自由で衰弱しているのが原因となつて死亡するに至つた(特に反証はない)のであるから、右原告両名の精神的打撃は死亡日時を異にしても両親が本件事故によりともに死亡したことにより非常に大きなことが考えられるから、右の点を付加するほかは、原判決記載(理由二摘示を引用)と同一の理由により亡覚之助の死亡による慰藉料の額は亡堀木さゝにつき金二〇〇、〇〇〇円、右両名の死亡による慰藉料の額は原告堀木俊三、同康子において各金三〇〇、〇〇〇円宛と認めるのを相当とする。

さらに、亡堀木さゝ自身の受けた傷害による同人の精神的損害については、前認定のとおり同人が本件事故により死亡するに至つたわけであるから、その精神的苦痛は大きなものであつたことが実証されたのであつて、この事情を勘案して同人の受けるべき慰藉料の額を金五〇〇、〇〇〇円と認めるのほかは、原判決理由記載(理由摘示三)のとおりであるから、これを引用する。

そして、右堀木さゝの慰藉料についても同人が本訴において請求して以後に同人の死亡があつたから、その相続性は否定できず原告両名がその相続分に応じ各二分の一を承継したというべきである。

されば、原告俊三は(イ)同人の受けた物質的損害額の賠償請求権金四二、〇八〇円五〇銭、(ロ)亡覚之助の死亡によるその損害賠償請求権の相続分金四六一、二〇三円八七銭、(ハ)両親の死亡による精神的苦痛の損害賠償請求権金三〇〇、〇〇〇円、(ニ)亡さゝの有していた損害賠償請求権(覚之助死亡による物質的損害の賠償請求権の三分の一、同人死亡による慰藉料二〇〇、〇〇〇円、さゝ自身の物質的損害賠償請求権六〇、八二六円五〇銭、同慰藉料五〇〇、〇〇〇円の合計額より原告自認の自動車損害賠償保障法によりさゝの支払を受けた二〇〇、〇〇〇円を控除した残額金一、〇二二、〇三〇円三七銭)の相続分金五一一、〇一五円一八銭、の合計額より前記保険金受領分一〇〇、〇〇〇円を控除した残額金一、二一四、二九九円五五銭、原告康子は右(イ)を除いたほかは同様の計算による金一、一七二二一九円〇五銭の損害賠償請求権を有するものというべく、被告両名は連帯して右金員およびこれに対する本件不法行為の日の習日たる昭和三四年三月一五日以降右各金員完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度において正当であるから、これを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、これと異る原判決を変更し、被告らの本件控訴は理由がないから棄却すべく、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条本文、第九三条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本収二 西川力一 渡辺門偉男)

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